テーマ:懐かしき人達

「懐かしき人達」 ③-4 オッ君 バイバイ!

 やがてその人達は輪になって、両手を上にあげ、まるで阿波踊りのような格好 をして、目は閉じたままゆっくりと回りはじめ、大きな声で呪文のように何かを 唱え始めたのです。その姿は夢遊病者ようであり、無我の境地にある人間と神 とが、一体となった姿にも思える、何とも不思議な時の流れに吸い込まれていく ようでした。  1時間も続いたでし…
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「懐かしき人達」 ③-3 オッ君 バイバイ!

 オッ君との別れの日。葬儀に出席するため、クラス全員で山道をあるいて 行きました。こんなに遠い道のりを、雨の日も風の日も休まず元気に通って いたオッ君の逞しさが、今更ながら切なく胸を打つのでした。 葬儀場といっても、崩壊した家の前の狭い空き地で行われました。  そこで、不思議な光景に出くわしたのです。みんなが えっ! と驚き…
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「懐かしき人達」 ③-2 オッ君 バイバイ!

 1952年の事でした。大きな台風が何度も上陸し、雨風の被害は甚大で した。河口では海水が床上まで浸水しました。また、上流の川沿いでは、 家ごと流されて、尊い命を失いました。 オッ君のところは、山崩れで家が崩壊し、オッ君の命を奪い去っていきました。 嵐の翌日は、嘘のように晴れ上がりましたが、教室の中は悲しみに誰も無口 でし…
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「懐かしき人達」 ③-1  オッ君 バイバイ!

 田舎の中学は町の中央にあった。片道1時間以上かかる山道を通って来る子 も何人かいた。オッ君もその一人であったが、中でも一番奥に住んでいたので 奥君と言うあだなになった。栗のように浅黒く陽に焼けて、みるからに山の中か らひょっこり出てきたようなオッ君の周りには、いつも何人か連れができていて、 楽しげな笑いをふりまいていた。成績も…
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「懐かしき人達」 ②-8 自称作家と言う青年

 長田の死は意外であった 何故? 何故? 彼を知る者は、初めてその存在を振り返った。 「時間があれば、小説を書いています」と言っていた彼が、広い部屋の片隅で 川のせせらぎを聞きながら、川風の音を楽しみながら、原稿用紙に向かって 何を書きたかったのだろう。何を主張しようとしたのだろう。  年老いた母親とのつつましい暮らしぶりが、…
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「懐かしき人達」 ②-7 自称作家と言う青年

 なんとか同人雑誌の創刊号にこぎつけることができた。だがそれは内部の もめ事により、次号を見ぬまま解散してしまった。ものを書く人達の強い個性 は、協調の精神が薄く、自己主張の強すぎる我儘者でしかないと、少々落胆 もしたが、書きたければ、何も集団になる必要もないではないかとも思った。  光陰矢のごとし。 月日はめぐり、パ…
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「懐かしき人達」 ②-6自称作家と言う青年

 自分の将来には、文学への道だけが鮮やかに可能性を秘めているかのように 思っていた。はちきれんばかりの若さに張り付いた夢の重みは、どんな苦境にたって いようとも、揺るぎない支えでもあった。    ある日、忘れていた (長田 健)から手紙が来た。同人雑誌会員の呼び掛け であった。相手の目を見て話すこともぎこちないあの人が、どう…
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懐かしき人達 ②-5 自称作家と言う青年

 それから数日後、分厚い茶封筒が届いた。裏にはやはり (作家 長田 健) と記してあった。幼い字であるが、堂々と自分を作家とうたうからには、それな りの作品であろうと期待し想像も膨らんだが、見事に打ち破られた。  こんなものを作品と言えるのだろうか。どんな感想を伝えればいいのか。 正直に、率直に、自分の感想を伝えることは、大…
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「なつかしき人達」 ②ー4 自称作家と言う青年

 時は昼食の時刻であった。二人の前に食膳が並べられたが、あまりのみす ぼらしさに愕然とした。だが反面、貧乏の共有が二人の堅苦しさを解きほぐし てくれた。和らいだ空気にわずかな笑いも出るほどになった。 「ゆっくりしていってください」 歯の抜けた口元に手をあてがいながら、母親 は嬉しそうに静かに笑った。 身なりは質素であるが、出自の…
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懐かしき人達 ②ー3 自称・作家と言う青年

駅からの30分はとても長く感じた。黙々と歩き続ける二人の様は、奇妙な 光景であったろう。 白い帽子の縁を何度もいじったりしながら,、彼の顔の表情や古ぼけた靴、 やけにだぶついた洋服やズボンなど、一瞬のうちに観察をした。 想像からかけ離れたその存在に、「あまり期待しないほうがいいのでは」 という母の言葉をかみしめるのでした…
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懐かしき人達 ②ー2 自称作家と言う青年

 会って話がしてみたい。作家と言うからにはきっと素晴らしい人だろう 作家の肖像を思い描き、高揚感あふれるままその日を待ちわびた。 夏休みのその日がついに来た。「あまり期待しないほうがいいのでは」 と母は不安気な顔をした。好奇心は最高潮に達し、もう止まることはな かった。 目的の駅は閑散としていて、列車を降りたのは2~3人だ…
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懐かしき人達 ②-1 自称 作家と言う青年

 一通の手紙がもたらした衝撃は大きかった。 高校2年の夏のことでした。見も知らぬ人からでしたが、まず、下手な字と 名前には驚きました。名前には肩書きがありました。(作家・長田 健)  作家と自称するからには、本当にこの人は作家なのだろうか。 何とも不可思議な気がしましたが、少しばかり胸の高鳴りも手伝って 封を切りました。 …
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懐かしき人達 ①-5 加代ちゃんのこと

 1950年、小学校を卒業し中学生になった加代ちゃんの暮らしぶりは、 わずかながら良くなっていました。お風呂もお父さんがドラム缶で作り 髪もいつも洗って、さっぱりした身なりをしていました。  中学を卒業と同時に、何処かの街へ就職した加代ちゃんのことは 以来、誰の口にものぼらず、忘れられてしまいました。  あれから綾なす幾星…
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懐かしき人達 ①-4 加代ちゃんのこと 

 両親は夜明けとともに開墾の仕事に出かける。弟達の面倒を見る傍ら近所の畑 の草取りや使い走りなどをして、わずかな小遣いをもらっていた加代ちゃんでした が、それも家計の足しにお母さんに渡していました。お母さんが疲れて帰って来る と、得意そうに差し出す手の平に、小銭がちょこんと威張っているようでした。  お母さんが見せる笑顔がとても…
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懐かしき人達 ①-3 加代ちゃんのこと

 その頃は食べ物が不足していて、白米だけのご飯は盆、正月、祭りときまっ ていました。どこの家庭もつつましく、子供も親に我儘も言わず、敗戦の傷跡を 癒しながら生きていたのです。ましてや裸一貫で引き揚げてきた加代ちゃん達 の苦労は本当に計り知れないものがありました。  たまに登校してくる加代ちゃんは、鞄は勿論のこと鉛筆もノートも…
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懐かしき人達 ① 加代ちゃんのこと

 物置小屋を整理して古いむしろを敷き五人は体を寄せ合った。父母は石のように黙っていた。 農家が収穫した後のわずかな野菜のくずをもらって餓えをしのぎ、塵の中か拾ってきた毛布の 切れ端で、加代ちゃんは上着らしい服を自分で手縫いで仕上げ寒さに耐えた。小さい弟達 の面倒は全て加代ちゃんの仕事だった。お父さんもお母さんも、外が明るいうちは家…
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