テーマ:寛ちゃんとゴン

「寛ちゃんとゴン」 ⑲

 お母さんに一度も抱かれることもなく、お母さんのお乳も知らず、おばあちゃ んに引き取られて育った典子は、母の死を悲しみととらえることはなかった。 おばあちゃんの悲しみを少しでも和らげようと、自分の出来ることは率先して やり遂げた。  お通夜や葬儀など忙しい日が続き、ゴんの次の名前はまだなかった。  おばあちゃんは、娘の死で…
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「寛ちゃんとゴン」 ⑱

 夜明けの空気はなによりもおいしい。会合の帰りにまた寄りますからね。 そう言っていとまを告げた。あの子が目を覚まさないうちに縁側までたどり着こ う。今日は新しい名前をつけてくれると言う。 自分は、叶うことならいつまでも 「ゴン」でいたい。しかしそんな我儘はゆるされまい。  灯りがついていて、台所ではいい匂いがしている。おばあ…
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「寛ちゃんとゴン」 ⑰

 明け方近くに開かれた今日の会合は、13歳になったゴンを、ボスをはじめ 仲間の皆が祝福することで始まった。生きることの厳しさを耐え抜いた年月 を、今後の生き方にしっかり活かしていこうと、あらためて思いを強くしたの です。自分はどんな場面に遭遇しても、決して動じることなく、冷静でいよう。  落ち着いた風格も備わり、可愛くなかっ…
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「寛ちゃんとゴン」 ⑯

 まわりの家々に灯りがともり始めると、女の子は玄関の外へ出て、誰かを 待っていた。 車の止まる音がしたと思うと、走り出した。 「おばあちゃん! おかえりなさい」   膨らんだバッグを受け取ると 「疲れた?  お母さんはどうだった?」 おばあちゃんの返事をせがむの                         でした。 …
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「寛ちゃんとゴン」 ⑮

甘いスイーツの香りがしてきた。春風の先導はここで止まった。 「幸せが待っていますよ」  そう言い残して縁側の隅にゴンをおいて行った  ゴンはじっと耳をそば立ててあたりの様子を観察することにした。広い庭 には春の花々がその美を競い、洗濯物の白く波打つ様は、ゴンを暖かく 迎えているかのようだ。  縁側に座っていたが、不覚にも…
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「寛ちゃんとゴン」 ⑭

 ゴンが戻ってきてからの反応は、目覚ましい早さで結果を出した。 若い連中は進んでゴンの周りを囲み、旅の途中の出来事や、新しい発見に 目を輝かせた。寒さと飢えで生死をさまよったこと、人間に捨てられた子猫が 独り立ち出来るまで支えたこと、民家の軒下でひっそり体をやすめていると、 いきなり水をかけられたこと。  記憶の糸を少しず…
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寛ちゃんとゴン」 ⑬

   季節の巡りは激しい起伏の痕跡を置いていく。ゴンは立派に生きていた。 締まった体と眼光の鋭さは、歳に似合わず精悍な容貌であった。 広い草原の中に、しばしまどろむゴンの雄姿が見える。  穏やかに広がる風のそよぎは、ゆりかごに眠る夢のひと時のように遥か 昔にいざなってくれるのでしょうか。 草をはむゴンの目に、別れ…
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「寛ちゃんとゴン」 ⑫

 その年の暮は例年になく雪の日が多く、クリスマスイブにふさわしい夜の 風景であった。寛ちゃんは部屋の窓をいっぱいに開けて、ゴンの帰りを待っ た。だがいつまで待ってもゴンは姿を見せなかった。 「ゴン・・・・・ゴン」  小さな声ではあったが、この寒さを包みこんでしまう              優しさと懐かしさであふれていた。 …
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「寛ちゃんとゴン」 ⑪

 暑い夏も寒い冬も決して愚痴らず、勉学に集中し未来の夢を新たにした寛ち ゃんの成長ぶりは、甘ったれで我儘であった子供の頃の殻を、何処かへ脱ぎ 捨てたかのような目覚ましいものがあった。家族の信頼度も増し姉達の扱いも ずいぶん優しくなった。 誰もが突然失踪したゴンのことが気がかりであったが、悪しきことだけを想像し て、出来るだけ自…
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寛ちゃんとゴン」 ⑩

 一週間はあっと言う間に過ぎ去り、寛ちゃんもゴンも何か忘れ物をしている ような気がして、焦りばかりが胸を覆うのでした。 「ゴン・・・・・・きっと帰ってくるんだよ」 寛ちゃんはゴンを抱き上げた。 「ゴン、食べ物がない時や、辛い時は、こっそり俺の部屋の窓まで来るんだ」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「ゴンと俺とはどんな時も…
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寛ちゃんとゴン」 ⑨

 ゴンの長い沈黙は、自らの生き方に対する懺悔であり、今後の身の振り方 をどう表すかを問い続けた結果でもありました。 私らの世界では、若い世代にいろいろと教育をせねばなりません。そうゆう年 になりました。しかしながら、私は小さい時も今も人間の世話になって生きて きましたから、野良としての年数が足りません。もしも、13歳を超えて…
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「寛ちゃんとゴン」 ⑧

 人間の言葉を喋る相手は一人だけに限っていたので、寛ちゃんのいない時間 帯は、人間の姿を避けてじっとして過ごすゴンでした。 寛ちゃんもそのことはよく心得たもので、友達との約束もできるだけ短時間にし たり、宿題も早くかたずけたりと、貴重な一週間をゴンと自分のために有意義 に使いたいと堅く決めているのでした。  夜がきても、ゴ…
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「寛ちゃんとゴン」 ⑦

 あれこれと、思うことも考えることもたくさんありますが、寛ちゃんに助け て頂いたことへの感謝の意だけは、なにがなんでも自分は人間の言葉 でお伝えしておきたかったのですよ・・・・・元気なうちに。 「ゴン・・・・ゴンは老人なんかじゃないよ」   毎日のように、車の犠牲になって仲間が死んでいきます。 昔と違って文明の利器も発…
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「寛ちゃんとゴン」 ⑥ 

 寛ちゃんの心臓の高鳴りも静まり、あらためてゴンをまじまじと見つめて言 いました。 「ゴンは本当に猫なのか?」 ゴンは一歩前に出て言います。 「猫族です。もう年もとりました・・・気持ちはちっとも変っちゃいませんがね」 正面を見据えて話す姿は、凛として美しく、これまでのゴンのイメージからは 一変しておりました。寛ちゃんは…
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「寛ちゃんとゴン」 ⑤

 ゴンは寛ちゃんの枕もとに座っていた。寝像の悪さには笑ってしまうが、 元気な証拠だと思えば可愛いもんだ。寛ちゃんの優しい目に、のこのこ ついてきてしまったわが身のいきさつを思い出すと、後悔じみた切なさを 振り払うのがやっとである。人間の小僧なんぞに、へこへこする奴は、 許せねえ!と言う持論だが、その自分が意に反するあるまじき態は…
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「寛ちゃんとゴン」 ④

 ゴンはその夜家を出て、猫の集会所へ行った。この地区には20匹ばかりの 大人猫がいてまあまあ良くまとまっている方だろう。なんといってもボスがなか なかのできた雄猫で、皆が心から敬意を持って一目も二目もおいているからに 他ならない。 ボスの名前はない。彼は純然たる野良ネコである。人間に飼われた過去を持 つものは、決してボスにはな…
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「寛ちゃんとゴン」 ③

 今日もゴンは下駄箱の上でくつろいでいた。寛ちゃんの帰りを待っていた訳 ではなかったが、自分の帰りを従順に待っていたのだと大将は解釈した。 「ゴン! いい奴だな」 都合のいい解釈にも、まるで無頓着なごンのでかい 態度はいつもとちっとも変らない。 「俺が帰って来た時くらいは、目を見てにゃんとかみゃんとか言えよ」 寛ちゃんはし…
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「寛ちゃんとゴン」 ②

 寛ちゃんは末っ子で、上二人はお姉ちゃんばかりだが、手八丁口八丁のしっ かり者なのでいつも頭が上がらない。ちょっとでも反発しようものなら、びしっと 理屈でやりこめられてしまう。ゴンだけが命令の対象だが、そのゴンでさえ近 頃は横柄な素振りが見てとれる。この家の順位を見極めていて、自分が必要 とする者には、体を寄せて甘える技を見せつ…
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寛ちゃんとゴン ①

 寛ちゃんの家に遊びにいくと、いつも下駄箱の上で猫の ゴン が長くなっ ている。その寝姿を見て、10人中10人が「おお!」とか、「へへっ!」とか 必ず一声発する。ゴンは、けだるげに首だけ持ち上げて、なんだまたこいつ らか と言わんばかりのふてぶてしさで、大あくびをしたかと思うとまたもと の体制に戻る。  ゴン は人間の好き嫌い…
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